小さな小さなマテリアル食堂

3月

3月のランチコースメニュー

CUCINA MATERIALの魔法:三月の邂逅と美食の饗宴

春の息吹が漂う3月の夕暮れ、旅人は三度目の訪問を果たすべく、
懐かしい洋館レストランの前に立っていた。
厳冬の1月、早春の2月と訪れるたびに、
季節の移ろいと共に変化する美食の記憶が、
心に深く刻まれている。
ふと見上げると、これまで気づかなかった優雅な文字が、
夕暮れの中で柔らかく輝いていた。

“CUCINA MATERIAL”

旅人は思わず口に出して読んでみる。
「クッチーナ マテリアル…」

ドアを開けると、温かな光と共に春の香りが旅人を包み込む。
そして、いつもの笑顔のウェイトレスが近づいてきた。

「お待ちしておりました。CUCINA MATERIALへようこそ」

その言葉に、旅人は少し驚いた表情を見せる。
ウェイトレスは優しく微笑んで続けた。

「ご存知なかったのですね。
CUCINA MATERIALは『素材の料理』という意味です。
季節ごとの最高の素材を、最高の形でお客様にお届けする。
それが私たちの願いなのです」

その言葉に、旅人は今までの訪問で味わった料理の数々を思い出し、納得のいく頷きを返した。

「今宵も、春の訪れを祝う特別なコースをご用意いたしました」

窓際の席に案内されると、外の景色は前回よりもさらに明るく、木々の芽吹きが見え始めていた。

最初に運ばれてきたのは、「白身魚の一口タルタル」。
淡い色合いの白身魚が、春の朝霧のように皿の上に佇んでいる。
一口頬張れば、魚の繊細な旨味とタルタルソースの爽やかさが、
冬の眠りから目覚めたかのように舌の上で躍動する。

続いて「明石の真蛸のトマト煮込み」が登場。
鮮やかな赤いソースが、まるで春の陽光を浴びた花畑のよう。
蛸の柔らかさとトマトの酸味が絶妙なハーモニーを奏で、
旅人の口の中に春の温もりを運んでくる。

 続いてプリもピアットは「フレッシュトマトソースのカペリーニ」。
細い麺が春の若草のように皿の上で輝いている。
フォークを回せば、フレッシュトマトの香りが立ち昇り、
まるで春の庭園を散歩しているかのような心地よさを感じる。

セコンドピアット「挽肉とモッツァレラチーズのレタス包み、白胡麻のソース」では、
緑のレタスが春の若葉のように皿を彩り、白い胡麻ソースが優しく包み込む。
一口ごとに、CUCINA MATERIALの名に込められた想いを感じる。

デザートの「ティラミス」は、冬と春の境界線を表現しているかのよう。
コーヒーの苦みが冬の名残を感じさせる一方で、
マスカルポーネの滑らかさが春の柔らかさを思わせる。
最後の「食後のお飲み物」は、今回はフルーティーな紅茶を選んだ。
立ち昇る香りが、まるで春の花々の香りのよう。
別れ際、ウェイトレスが優しく語りかけた。
「次は初夏のメニューでお待ちしております。
CUCINA MATERIALは、これからも季節の素材と共に、お客様をお迎えいたします」
旅人は微笑みながら頷き、再び外の世界へ。
外気は柔らかく、確かな春の訪れを感じさせる。
三度の訪問を通じて味わった美食の記憶が、冬から春への移ろいを鮮やかに描き出す。
そして今、その思い出には CUCINA MATERIAL という名前が、優しく寄り添っていた。
旅人は、この名前とともに初夏の訪れを楽しみに、
再びこの地を訪れることを心に誓ったのだった。